Lab to Market (L2M)

■Lab to Market(L2M)とは?

Radyスクールの看板コースで、ビジネスアイデアを起業プランとして練り上げるという作業です。そこには市場分析、顧客分析、マーケティング戦略、財務戦略、組織戦略など、あらゆる要素が入ってきます(詳細はこちらも参照ください)。3C, 4Pなどといったお決まりのフレームワークはあるものの、本質的に起業プラン作成方法の決定打などはありません。アイデアや、人々の考え方によって、アプローチは千差万別です。「起業プラン作成プロセスというのは、元来messyでiterativeなものた」、担当教授がよく口する内容です。何も無いところから、半ば力技で練り上げる第一弾プランは欠陥だらけです。それでも、何か形が見えてくると人は次に何をすべきかが分かってきます。そうした作業を繰り返し繰り返し行っていくんですね。

そんなmessyでiterativeなプロセスを、授業コースとして構築するというのは相当チャレンジングなことだと想像します。プラン策定過程で活用できそうなフレームワーク、文献などについて議論したり、ゲストスピーカーから関連する話を聞いたりします。そして、「この時期にはこういう問題に直面するだろうから、こういう記事、ゲストスピーカーを準備しておこう」という教授の意図は、見る人が見れば非常にクリアでかつ極めて合理的・効果的だと感心してしまいます。

私的には、こうしたサポート情報はとても重宝し、様々な難題を解決する助けになっています。恐らくそれは、私が過去に事業企画の経験があって、そこでいろいろと悩み苦しんだ経験があるからではないかと思っています。一方で、事業計画策定プロセスに馴染みの無い人にとって、授業そのものは、いまひとつ響かず、単なるオセッカイとして映る場面もあるようで、不満の声が上がるときもあります。

担当教授は、こうした学生の声を率直に聞き入れ、コース内容の改善に向けて、日々試行錯誤を続けています。今期も、期の途中から授業のロジスティクスが変更になりました。変更したことが正解だったのか否かは後になってからしか分からないことですが、それでも現状を改善しようとして、大胆な変更に踏み切ったのは、本当に凄いことだと思います。

ようやく骨子に近付きました。つまるところ、「リスクテイク」、「変化」、「進化」こそがRadyの真骨頂だということです。そして、Radyスクールの看板コースであるL2Mでそうしたスピリットが具現化しているというのは、なかなか面白いことでもあると思います。これからもL2Mは、どんどん進化していくでしょう。公式サイトのL2Mの説明が極めて概論的なのは「変化が激しすぎるから」と解釈をしておくことにしましょうか。

■実例 ~UCSD Health における訪問介護オペレーション改善~

(本稿は卒業生の小山勇太氏からご寄稿いただいたものです。)

背景

MBA留学前は、ITエンジニアとしてキャリアを歩んできましたが、今後のトレンドがAIやIoTといった最新のITを活用したソリューション開発・ビジネス創出にシフトしていく中で、クライアントに目に見える成果を確実に提供できるビジネスパーソンになりたいと考えていました。こうした背景からITを用いた課題解決を実現するようなプロジェクトに参画したいと考えていました。

テーマ

これまで自身が経験したことのない業界における世界的な課題(健康・医療、食糧等)となりそうなテーマをICTで解決するという軸でテーマを選定しました。

リーダーシップやチームワーク

本テーマは、USCDの大学病院に通っている心臓病患者に対する訪問介護のオペレーションを改善するというものでした。プロジェクト期間は約6ヶ月で、具体的な活動内容としては、対象患者への訪問ヒアリング、訪問介護従事者へのヒアリング、訪問介護の費用対効果効果算出、訪問介護に従事する看護師の最適人数、IoT機能を具備した体重計の費用対効果算出等を実施し、UCSDの大学病院のCMO(Chief Medical Officer)に提案を実施しました。私の主な役割は訪問介護オペレーションデータの解析および費用対効果の算出でした。当然ながら、患者や訪問介護従事者へのヒアリングも担当し、チームメイトの医学博士に質問しながら必死にアメリカの医療制度や現状の課題等を学び、ヒアリング内容を精査したのは今でも忘れられない思い出です。

プロジェクトとしての成果

本プロジェクトの主な成果は以下の通りです。

・訪問介護士を3名増員を決定

・IoT機器を具備した実証実験検討を開始

Takeaway

本プロジェクトを通じたTakeawayは以下の通りです。

・クライアントとの良好な関係づくり:オペレーション改善というテーマのため、プロジェクト開始直後は訪問介護従事者が本音で話してくれない雰囲気(訪問介護士の人数を減らせ等の提案をしかねないと思われていた模様)でしたが、訪問介護の同行中に雑談したりプロジェクトの進捗を相談したりする内に協力者になってくれたのはとても良い経験でした。COVID-19の影響でプロジェクト途中で中止になりかけた際も、協力者の方々が私たちの気持ちを優先し、プロジェクトを継続させてくれたのもそれまでに築いた良好な関係性のおかげなのかなと思っています。帰国後はビジネス開発の従事していますが、本プロジェクトで経験したように、ステイクホルダーと良好な関係を築いて社会にポジティブなインパクトを出していきたい、というモチベーションの源泉になっています。

・課題解決をクライアントを巻き込んで実施する重要性:MBA留学前のITプロジェクトで、しばしばクライアントの協力を十分に得られずトラブルになったケースを経験していました。本プロジェクトでは、学生とうこともあり会社としての利益を度外視して、シンプルにクライアントに貢献したいというモチベーションだけでやっていたこともあったのか、クライアントが一緒になってプロジェクトを推進してくれたと感じています。ビジネスパーソンとして利益度外視ということは出来ないにしても、心からクライアントに貢献したいと考え行動することがプロジェクト成功に繋がるということを学ぶ非常に良い機会となったと思っています。

・表面上のデータだけでなくその裏側をしっかりと理解すること:本プロジェクトでは対象患者の通院データや大学病院側の費用データを解析しながら費用対効果を算出することが求められていました。MBAの授業では、データの定義や理解しやすいように加工されたデータを使っての統計解析を実施していましたが、前述したデータは定義もなければ初見ではデータの意味もわからないといった状況で、まずはデータの意味を正しく理解する必要があり非常に苦慮しました。データの意味を正しく理解するために、米国の医療システムや保険システムを理解する必要があり、チームメイトと朝から晩までイチから学んだのは今ではとても良い思い出です。今後はビッグデータを活用したソリューション提案の需要が多くなると想定していますが、本プロジェクトの経験を通じて、時間は要してもデータの裏側にある意味を正しく把握することがより良いアウトプットに繋がるということを学ぶことが出来たと思っています。